第28回 細川蓄音器店さん

 全国のスゴいお店を紹介していく「つのはず誠の“元気が出る<CD>ショップ”」。第28回は、秋田市の細川蓄音器店(さん、以下敬称を略し、便宜上「細川レコード店」と呼びます)をご紹介します。


「ホソレコ」という表示がなければ、街の電器店か、あるいはアーティストのポスターがなければ、洋菓子店かと思うようなとっても可愛らしい建物。しかし、扉の向こうには、めくるめくディープな世界が・・・。


そして、これが創業86年を物語る看板。


この写真で、店舗全体の半分くらいですが、この中に様々な知識と愛が詰まっているのです!


全国屈指の充実、演歌カセット・コーナー。東北のカラオケ文化は、ドント・ペロリアンだごど~。


そして、演歌系のシングルCDは面陳。演歌・歌謡曲だけでこの量は見ていても快感です。水森かおり(左上)は、手の添え方から演歌界のアイドルだと分かりますね(微笑)。

 以前から細川レコードは、“演歌充実のお店”とか、秋田県最初のレコード店(創業1925年!!)とか話を聞いておりずっと訪ねたいCDショップでした。しかも、ホームページの読み切れないほどの情報量。これは、きっと愛がある、あ・る・る・る(←とくこby「あらびき団」風に)に違いない!と思い、秋田駅で自転車を借りて(無料!)駅から30分ほどかけて港町・土崎にやってきました。
 
 そして、国道から20mほど入った所に発見したのですが、そこは“乙女チックなマンガ”(死語)に出てきそうな可愛らしい店構えと、「細川蓄音器店」と極太の黒字で書かれたおどろおどろしい(?)看板が何ともミスマッチなレコード店でした。しかし、いったん入ってみると、そこは、まさに(いろんなジャンルの)“音楽の天使”たちがフワフワと飛び回っているような素敵な空間なのです。

 まず、なんといっても予想をはるかに超える演歌の在庫!演歌に強いお店は全国に多数ありますが、シングル、アルバム、オムニバスなどきちんと分けて並べられた棚、人気歌手ごとの細かいインデックス、何よりどの棚も、そのほどよい棚のスキマから明らかに毎日売れている活気が溢れています。

 そして、更に驚いたのがカセットの膨大な量で、これは全国でもTOP5レベルの在庫だと思います(面積当たりだったら間違いなく全国No.1!!)。考えてみれば、東北地方ってカラオケ文化や歌謡教室が非常に発達しているのです。(ちなみに、以前私が習っていた詩吟の人口は東京都より福島県が多いほど。)だから、カセットやカラオケDVDを充実させているのも納得なんですよね。ゆえに、自ずとお店の中の「テイチク」率も全ジャンルで高くなっています。


こちら、秋田出身アーティスト・コーナー。松本英子さんも秋田だったんだと初めて知りました。「桜田淳子は?」とか細かいツッコミは無しよ。


秋田は、竿燈(かんとう)や大曲の花火など見栄えするお祭りが沢山あるそうで、ここではDVDのみならず、なんとブルーレイでも販売されています!従来のメディアから最新メディアまで、すごいフォローっぷり!


“フォーエバーヤング”と書かれた大人向けのコーナー。山下達郎のアナログ、沢田研二のぶっとい自主制作盤、その他BOXなど限られたスペースでも確実な選択眼が光っています。昭和の女性アイドルもやや多め。あっ、都内で高騰している“ハラボン”付きの『ハラッド』も発見!

 そして、地元アーティスト・コーナーも充実。実は、私、ずっと探していたCDがあったのです。20年ほど前、ラジオ番組で秋田音頭を歌謡ロックのリズムに合わせ、まるで呻くように「ヤァァァァァァ~トーセェェェェェ~」と歌うのを何回か聞いて、たまに発作的に聞きたくなるのですが、ネットで検索をかけても見つからず、またiPhoneなどの楽曲認識システムでも引っかからず、「Yahoo!知恵袋」でも誰も答えられず、ずっと悶々としておりました。

 しかし、ここで店番をされていたオバさま(後で店長のお母様と判明)に尋ねてみたら、メガネがキラっ!と光った瞬間、「これかしら?」と差し出したそのCD から、20年ぶりの独特な節回しが聞こえてきて、本当に感謝感激しました。ネット検索でも最新技術でも巨大な口コミでも分からなかったことが、細川レコードのベテラン・クイーン(微笑)があっさり解決してしまったという衝撃!人間の能力の底知れなさを垣間見た瞬間でした。(現在は佐藤真理子さんご本人が制作なさっているそうです。)

 さらに、この演歌や秋田コーナーに準ずる高いテンションで、クラシック、ジャズ、学芸も徹底的に通好みに揃えられています。特に、学芸は「昔、新宿三丁目にこんな揃え方をする、お店あったなぁ~」と思っていたら店長の細川信二さんは、そのお店「コタニ」に数年間いらっしゃったとか。お店がなくなれど、棚にそのDNAが引き継がれていることに、じーんとしちゃいました。また、個人的な話で恐縮ですが、大人コーナーにて、4万枚出荷の岩崎宏美『GOLDEN☆BEST』と、4千枚出荷で通好みの『GOLDEN☆BEST II』を一緒に置いて下さっていたのも嬉しかったです(共に、私が企画)。どのジャンルも、定番を押さえつつ、更にディープまでいざなう姿勢がお見事。これこそレコードショップの鏡だと思うのです。


グラモフォンの黄帯やらEMIクラシックの青帯、ソニーSACDの黒帯など色とりどりなクラシック・コーナー。総じて本物志向です。


細川信二店長のこだわり、学芸・教材関連のCD。これも、教育県・秋田らしくて良いですね。


こちらクリスマス・コーナー。木製の棚や飾りつけで心もほっこりします。

 ここで、最新のアルバム・チャートを見てみましょう。

細川レコード店 アルバムTOP10(2011/11/7~11/13)
順位 作品名 アーティスト名
1 K album KinKi Kids
2 HOW CRAZY YOUR LOVE YUI
3 光の射すほうへ…Ⅱ 岩本公水
4 新呼吸 Base Ball Bear
5 歌謡紀行Ⅹ~庄内平野風の中~ 水森かおり
6 リアルタイム・シンガーソングライター 高橋優
7 1969 由紀おさり&ピンク・マルティーニ
8 Driving in the silence 坂本真綾
9 ゴールデン☆ベスト 柳ジョージ
10 華浪漫~セレナーデ 秋元順子

 秋田出身の演歌歌手、岩本公水とシンガーソングライターの高橋優くんが仲良くランクイン!由紀さおりはオリコンより2足早くTOP10入り!演歌コーナーに置かれている秋元順子がしっかり売れているのも、実はポップスやジャズ・ファンにも人気の作品だということをお客様にしっかりとアピールできているからだと思います。それでいて、Base Ball Bearや坂本真綾など音楽的に評価の高い新人以外も売れていて、なんとバランスの良いこと!このラインナップがそのままお店になっています。

 そして、オススメ作品については、エース店員の鈴木真奈美さんからコメントをいただきました。

柴田淳『僕たちの未来』

柴田淳、8枚目のアルバム。ドラマティックな「この世の果て」から、遠い異国のわらべうた的「風」、鋭い刃物チラチラ「マナー」…かと思いきや一転、ホロリとあたたかい「うたかた。~弾き語り~」など全11曲、胃もたれせずに聴ける一枚。いろんな景色が見える音と詞、程よい蔭りが心地良いです。
「風」に至っては個人的にストライクすぎて、どんな曲が好きかと問われたら「こんな感じの音!」と答になってしまうほどの射抜かれよう。いつも目の前にある大好きなアーティストももちろん推すけど、「この曲はなんだろう」と振り返らせたこちらのCDにしました。


私も好きなシンガーソングライター石野田奈津代のコメントが飾られたレジ前。「ず~~っとずっと変わらずに応援してくれてありがとう。だから秋田に来ようと思えます。」・・・行間に感謝が滲んでいます(涙)。


見よ、この手作りの看板!自分は、何人のお客様に自腹でプレゼントをしただろうか?また、何人のお客様から、こんなプレゼントをいただいただろうか?何か大きな“忘れ物”をしてきたように感じるほど美しい看板です。

 新人でもない、ベテランでもない、しかも(言葉は悪いですが)セールス微減を続けていて、CDショップ的には推しづらいアーティストですが、それでもこうして愛あるコメントをもらえると、“しばじゅん”好きな私もとても嬉しいです。ちなみに、店頭では篠原美也子や石野田奈津代などもプッシュされていて、どうやらちょっと翳りのある女性シンガーソングライターがお好きみたいで、その偏愛ぶり(笑)も嬉しかったです。

 そして、最後の写真は、木材工芸が趣味の常連さんからプレゼントされたという「ホソレコ」の看板!“コピペできるものは何でもタダ、その代わりタダでは動きまへんで~”みたいな世知辛い世の中で、こんな“愛の結晶”が贈られるのは、まぎれもなく日頃から愛情のキャッチボールが出来ているからだと思うのです。私自身、勘定抜きのつきあいがどれほど出来ているのか、あらためて考えさせられました。どの元気なお店も、大切な何かを教えてくれますよね(涙)。またお邪魔させて下さ~い♪

つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品に携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信、歌ネットなどでも愛と情熱に満ちた連載を執筆中。Twitterは@t2umusic。これ、もしかして来るかも?と最近、気になっているのがカミナリグモ。11/2に出た2ndアルバム『SMASH THIS WORLD!』は、プロデューサーの山中さわお色を残しつつも、彼ららしい爽やかさが楽曲全体にあり、しかもその爽やかさからは意外なほど意味深な歌詞もあり、確実に成長していてビックリ。the pillowsが15年かけて自己ベストを更新したように、彼らもじっくりと成長を待ってくださいね>キングさん。AKBもアニメも演歌も応援しますので~。