第30回 イケヤ イオン小牧店さん

 全国のスゴいお店を紹介していく「つのはず誠の“元気が出る<CD>ショップ”」。第30回は2011年の大トリを飾るべく強力なお店、愛知県小牧市のイケヤ イオン小牧店(さん、以下敬称を略します)をご紹介します。

 イケヤといえば、浜松を中心にCD、書籍、レンタル(TSUTAYA)、宝くじ、焼肉、黒餃子と節操なく(笑)すこぶる精力的で商売上手な“元・老舗蓄音器店”として有名ですが、他県で気を吐いているイオン小牧店も忘れてはなりません!!


イオン内のお店というと、巨大イオンモールを想起されがちですが、こちら元“ジャスコ”ですので、むしろ地元スーパーという位置づけに近いかも。でも、愛情はメガストアにも劣りませんし、愛情の密度なら、写真のように子供も飛び跳ねるほどハイレベルです!(笑)


この週イチオシはFUNKY MONKEY BABYS。モン吉の着ぐるみ実績も考慮されたPOPは、愛がなくっちゃ作れません。

 しかも、このお店のスゴイ所は、「ウチは集客が凄いから、放っておいても売れるよね~」みたいな、しばしばショッピングモール内のお店に見られるカンチガイ感覚は一切なく、お店のそこかしこから闘魂が感じられる点です。だって、ここは“イオン”といっても、建物自体はもともと地域密着型のスーパー“ジャスコ”だったし、その斜め向かいには巨大なヤマダ電機、その隣に超大型のBOOK-OFF(ここがまた、ほぼ新古品の投げ売りが多い!)、おまけに同じ建物の、同じ3階の目と鼻の先にヴィレッジヴァンガードもある訳で、普通にしていたら、お客さんがイケヤに行く途中で“浮気”する可能性はいくらでもあるのです。しかも、遠隔地ゆえにちょっと売れたくらいでは、本社から存在を忘れられてしまう可能性だってあります(イケヤ社長は、決してそんな方ではありませんが、距離的にどうしても、という意味です)。さらに、小牧市の人口は14.7万人と、商圏で見ても決して有利ではないはず。

 しかし、そんな逆境の中でも、テナント内でも優秀店であるこのイオン小牧店に、私は『沈まぬ太陽』の恩地元(山崎豊子著書の主人公)を思い出しました。それほどまでに、こちらのお店にはドラマティックな匂いがプンプン・・・。


基本は新譜コーナーですが、最下段でback numberや、あやまんJAPANなどリスナーが気にかかりそうな作品を、お店でもう一押しするという作戦。この積み重ねがロングヒットにつながるのですね。


こちらも、新譜コーナー・・・のはずが、最も目立つのが『家政婦のミタ』で注目される斉藤和義コーナー。しかも、視聴率の話題や松嶋菜々子の写真まで、お茶の間視線がお茶目!


きゃりーぱみゅぱみゅは8月作品ながら、着うたで再浮上すれば、すかさずコーナー展開!このTVと同期した敏感な行動こそイケヤ式!

 まず行ってみて驚いたのが、外壁にまで徹底した品物の陳列。ただ置かれているだけでなく、プッシュされている作品も分かるようになっていて、ここまで外壁を活用したお店も珍しいなと思いました。大人向けのJ-POPオムニバスや、キッズ向けのDVDなど、そのジャンルも、近年問題となっている万引きと縁遠い所が選ばれているのも、きっと試行錯誤あっての帰着点かと。

 そして中に入ると、店の狭さなんて全くいとわないド派手なPOPが続々!特に、小牧店が素晴らしいのは、きゃりーぱみゅぱみゅとか斉藤和義とかback numberとか発売から1か月以上経ったものも、POPやコメントでしっかり売り続けるということ。しかも、ある作品では音楽的に推しつつも、またある作品では「TVに出てました」的な下世話な内容で推すという、この二刀流もお見事。店長の土屋さんからは、「今は繁忙期で、1年のうちで最もPOPが少ないのです!」とコメントをいただき、それでこの大量レベル!「これ、つまらないものですけど・・・ダイヤ100gなんです」なんて上沼恵美子的ギャグを思い出しました(笑)。

 でも、冗談はさておき、近年、ロングヒットが少なくなっているのは、こうしたお店のPOPが少なくなった、また面白いPOPを競って作らそうとしてきたレコード会社のプッシュが少なくなってきたのも大きいような気がします。目先のオリコン初登場順位死守も大事ですが、何週間もフラットに売れ続ける作品をより多く作ることも、パッケージ・ビジネスの生きる道だと、私は感じています。


邦楽ロック・コーナー。メーカーのポップに“チョイ足し”した手書きPOPがお見事!


こちらパンクロック・コーナー。すぐ近くの某店でも猛プッシュのスコット・マーフィーですが、ここで買えばもう1~2枚、お客様にもお店にも音楽の広がりがあるのは嬉しいですよね~♪


いつも元気なハードロック・コーナー。短文と長文のバランスも勉強になります!

 また、イケヤ全体はヒップホップ系が強いのですが、それに加え、小牧店ではロック系もメロディアスなものからハードなものまで細かくフォロー。同じ階にあるスタジオ付きの楽器店から、練習帰りの若い子達が、試聴しては買っていくそうです。このコーナー展開が、これまでの「CDショップ大賞」のテイストと一番近いかもしれませんね。

 最初にことわっておきますが、私、タワーレコードの音楽やお客さんへの愛情自体は大好きで、自分もよく利用しているのです。でも、全国の音楽好きなCDショップ店員さんが好む作品の多くは、タワーレコードのみで突出した特典があったり、中にはタワー限定発売だったりして・・・うーむ、これって、アーティストとリスナーの繋がり方がいびつになっていないかな・・・なんて心配もしてしまいます。特に、タワーが近くにない小牧店のような所にも、配慮した施策があればいいなぁ。以上、地方回りをして「もし自分が、ここに住んだら・・・」なんて妄想ばかりしているオッサンの独り言でした。「ネット通販があるじゃん!」なんて、未成年を無視した反論は受け付けません (微笑)。


特典ポスターの中身って分からないだけに、“ド・アップ”なんて書かれたら、欲しくなる人が多そう。そういったツボの押さえ方もナイス。


女性アイドル・コーナーは、この空間の広げ方がアイドルの隆盛ぶりを想像させます。


韓流モノをはじめグッズが充填されたコーナー。(○○ちゃんパックのラックも有効活用されていますが、持ちつ持たれつなので○社様、どうぞ穏便に!)

 次に、アルバム・チャートを見てみます。

イケヤ イオン小牧店 桑野店 アルバムTOP10(2011/12/11~12/17)
順位 作品名 アーティスト名
1 THE BADDEST~Hit Parade~ 久保田利伸
2 スーパーガール KARA
3 1969 由紀さおり&ピンク・マルティーニ
4 JPN Perfume
5 TRIBAL SOUL 三代目J Soul Brothers
6 名探偵コナンテーマ曲集4 (オムニバス)
7 17 Kylee
8 THE BEST OF BIGBANG BIGBANG
9 MISIAの森 MISIA
10 閃光ライオット 2011 (オムニバス)
13 もしもし原宿 きゃりーぱみゅぱみゅ
14 POP DISASTER POP DISASTER

 上位はヒット作が多いのですが、発売4週目に入ったKyleeの1stアルバムが7位でロングヒット中!確かに、これドライブで聞くと爽快です。また、10位に『閃光ライオット』もランクインしていて、新人バンドのプッシュぶりも読み取れます。さらに、8月発売のきゃりーが13位に浮上、パンクなのにポップという大器を予感させるPOP DISASTERが早くも14位と、まさにお店らしさが出ています。大ヒットもので、売り上げを達成しつつも、中クラス・セールスのアーティストを育てていく、という理想的な図式が読み取れます。この中クラスに愛情を持つかどうかが、お店を面白くするかどうかの分岐点のような気がしました。最後に、オススメ作品について、店長の土屋さんからコメントをいただきました。

AK-69 /LIVE DVD 『THE STORY OF REDSTA -The Red Magic 2011- Chapter 1』

 我らが愛知県小牧市出身のヒップホップスター“AK-69”の最新LIVE DVDで、客演コンピCDが付いて3600円の超お買い得品!地元だけあってAKさん本当に強い!!旧譜アルバムは全作取り揃えてますが、回転率はほとんどがトップクラス同等!!旧譜が売れない昨今に、これだけ回転するということは、未だファンが続々と増え続けているということでしょう。1年前のアルバムリリース時にはお店にお越しいただきました。今後も地元小牧をしっかりと盛り上げていきたいと思います!

イオン店内のCDショップで、これほどまでにAK-69に“ラブ注入”しているお店は珍しい!
旧譜もセール対象品を揃えていて後追いファン想いのお店ですね!


演歌コーナーはインデックスが見やすい~。老眼にやさしいデカ文字、重要です(←最近、実感。)注目は右上の『エンカのチカラ 最強Z』の展開。これ、J-POPのカバー・コーナーやキワモノ・コーナーに置いて売れているお店もあるのでよろしければどうぞ♪


文字が踊っているように見える告知コーナー。あまりに素敵すぎて、ファンの人に持っていかれることもあるとか・・・(気持ちは分からないでもないけれど・・・ダメ!絶対!)

 ロングヒットでじわじわ売れるタイプのAK-69なのに、こちらのお店では事前予約が20人以上だったとか。これもお店のスタッフさんが信頼されている証拠ですよね。こんなに、ロックもヒップホップも得意なのに、ジャスコ時代から人気の演歌やキッズ向けもしっかりフォローされていて、小牧店を見たら「うちの店は狭いから」なんて言い訳は、どんな業種の方も通用しないかも。クヨクヨしているヒマがあったら、一度お休みを取って、私と一緒にショップの偵察ごっこ(笑)をしませんか?私も元気になりました!またお邪魔させて下さ~い♪

つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品に携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信、歌ネットなどでも愛と情熱に満ちた連載を執筆中。Twitterは@t2umusic。連載中でも便乗して注目してしまいましたが、12月21日に演歌歌手によるJ-POPカバー集『エンカのチカラ 最強Z レッド』『エンカのチカラ 最強Z ホワイト』が発売となりました。収録曲中で、特に注目されているのは、藤あや子「抱いて・・・」、森昌子「そんなヒロシに騙されて」、八代亜紀「アンチェインド・メロディ」、森進一「瞳をとじて」、前川清「Choo Choo TRAIN」、五木ひろし「RIDE ON TIME」(←ヤマタツの方)でしょうか。きっと、(良い意味で)予想を裏切ること間違いなし。お店でお聞きいただければ嬉しいです。