第二回「小田切大/パブリック」 DDCZ-1689 ¥2625 後半

「勝手にライナー・ノーツ選盤基準」を勝手に制定してみます。

その1:基本的に「ライナー・ノーツが付いてないもの」を対象とします
その2:主要CDショップのHP上でも、まだレビューされていない作品をピックアップします
その3:もちろん、私自身が購入しオススメ出来るもの。CDショップ大賞推薦候補かも。
その4:当面、JPOPの中からセレクトします

さて。今回も、前回からご覧頂いている「小田切大/パブリック」のライナーノーツの続きです。

今回のお題

小田切大/パブリック

小田切大 「パブリック」

数々の魅力満載な本作ですが、しかし、その魅力はそれだけではありません。様々のアーティストが関わることにより、バラエティ豊かな内容に仕上がっております。いくつかの楽曲と共に触れておきましょう。
 
②「九月六日午後三時十五分」⑥「the Sweet Love Song」を提供している竹中俊二は、本作のプロデューサーでもあります。彼は、ギター演奏も担当、更に楽曲を2曲提供しており、正に右腕的ポジションを担う人物。その活躍ぶりが示すように、プロデュース、セッション、楽曲提供、と広く活動しています。プロフィール欄の参加実績を見るだけでも、荒木一郎のツアー・メンバー、平井堅のレコーディング、任天堂のゲーム音楽担当、等々と凄さが伝わります。音楽資質に関しては、ジャズ、ロック、ブラジル、フュージョン、ワールドミュージック、テクノ、アバンギャルド、と様々な音楽性に興味を示す雑食派とのこと。自身のバンド、TIRONとしても活動しており、そちらではフュージョン色が強い音楽性を志向しています。①「アイル・ビー・ゼア」で印象的なスライド・ギターを聴かせてくれる他、音数を抑えつつ、情熱的な楽曲群をクールに仕上げている功績は大です。先述の楽曲も、小田切大の特色の黒さを損なうことなく、フュージョン、AOR度の高いナンバーで、良いアクセントとして機能しています。

 
③「グッバイ」④「僕の胸でおやすみ」には金原千恵子カルテットが参加しています。金原千恵子は、サザン・オールスターズや、宇多田ヒカル作品のレコーディングにも参加、JPOPシーンの名曲誕生に貢献している一流のヴァイオリニスト。小田切大作曲によるバラード・ナンバー2曲を、③弦楽四重奏、④ピアノ五重奏、と異なるアレンジで、盛り上げてくれています。

本編のラストに配された、カヴァー曲⑩「小さな空」は、現代音楽に於いて日本を代表する作曲家、武満徹が書いた楽曲。武満徹は、映画やTVドラマなどの娯楽音楽でも、積極的に作曲活動をしております。本楽曲も、1962年のTBSラジオ番組「ガン・キング」のテーマ曲に歌詞をつけたもの。現在でも合唱曲として親しまれている他、様々なアーティストがカヴァーしている名曲です。性質上、ストリングスを交えた重厚なヴァージョンが多い本楽曲ですが、ここでは珍しいギターの弾き語りヴァージョンとなっており、日曜日の夕方のような寂しさが印象に残ります。武満徹は、他にも数々の名曲を残しており、最近では、先日リリースされた「やもり」(矢野顕子、森山良子)のアルバムに収録されていた「死んだ男の残したものは」(作詞:谷川俊太郎)も、その一つです。

そして、おそらく本作で最も知られているだろう楽曲、ボーナス・トラック⑪「やってみようのうた」についても、触れておきます。本楽曲は、川嶋可能氏が手掛けています。現在の日本CM音楽界を代表する、作編曲者です。去年から今年にかけて、TVで放送されている車のCMで掛かっているBGM、ほたる日和「季節はずっと」や、HARCO「世界でいちばん頑張っている君に」も彼が携わった楽曲。「やってみようのうた」は、川嶋作品の特徴である、柔和なメロディが印象的な楽曲です。カルピスのCMで、たびたびBGMとして流されており、ここに収録してくれたサービス精神に感謝。余談ですが、川嶋可能CM曲のコンピレーションの発売を希望します。売れる気がします。

もちろん、ここまで触れていない本人作曲の⑤、⑦、⑧、⑨も、「やってみようのうた」に負けない魅力的な楽曲群です。中でも、ライブでは、手拍子も起こりそうな⑤「笑った!」は骨太なファンク・ロックとなっており、本作のハイライト・ナンバーでしょう。

以上で今回のライナー・ノーツを終りにしようと思います。最初に書いたようにプロモーションが控えめな本作。CD表面で一番目立つ「カルピスCM曲収録」のステッカー。(ボートラなのに)。しかし、曲自体の知名度に比べて、「あの曲」が、このアルバムに入っていることすら知らない人がほとんどだと思います。幸運にも、この文章で知ることが出来たあなたに、この替え歌を送ります。

「買ってみよう、買ってみよう、買ってみようったら、買ってみよう~」

おわり

しばた・かずよし。1973年、神奈川県生まれ。木更津博文堂のCD売り場でアルバイト店員として勤務すると同時に、CDショップ大賞実行委員としても日々活躍中。初めて自分で買ったCDは「ビージーズ」と「ドナ・サマー」のベスト盤。好きなアーティストは「LED ZEPPELIN」や「(ガブリエル期の)GENESIS」。HM/HRを聴いて育ち、極端なブリティッシュロック好きではあるものの、70年代までの音楽であれば、日英米問わず押し並べて好き。実は90年代以降のJPOPは5年前まで、ほとんど聴いていなかったというハンデはあるものの、やっぱり音楽は選り好みせず色々聴いたほうが楽しい、つくづくと実感中。ちなみに、携帯電話は携帯しない主義。