第四回「スカート/エス・オー・エス」KCZK-001

「勝手にライナー・ノーツ選盤基準」。
その1:基本的に「ライナー・ノーツが付いてないもの」を対象とします
その2:主要CDショップのHP上でも、まだレビューされていない作品をピックアップします
その3:もちろん、私自身が購入しオススメ出来るもの。CDショップ大賞推薦候補かも。
その4:当面、JPOPの中からセレクトします

 更新滞っておりました。この度転職しまして、今回から「カケハシ・レコードの柴田」です。よろしくお願いします。カケハシ・レコードは通販ショップで、ニッチ&ディープな輸入新品CDと、中古CDを取り扱っております。これまでと立場は異なりますが、「CDショップでCDを買うこと」を大切と思う気持ちは変わりません。これからはこの「勝手にライナーノーツ」もっと頻繁に更新出来るようになると思います。(ホントですね :注釈 編集部)楽しんでいただければ幸いです。

今回のお題

スカート/エス・オー・エス

スカート「エス・オー・エス」
KCZK-001 ¥1575

 スカートのアルバムには、「70年代英国特有の捻じれたPOPセンスや、暗さ」が溢れている。まるで加藤和彦、杉真理、松尾清憲、CARNATION、葡萄畑(2枚目)の如く。大切に扱うべき貴重なミュージシャンが登場した。

 振り返ってみると英国BEATの影響を感じさせるミュージシャンは多い。例えばTHE BAWDIESやTHE COLLECTORSといったグループ。プログレッシヴ・ロックも多そうだ。最近の事情は分からないが、新月や四人囃子がかつて居た。

 けれども「英国特有の捻じれたPOPセンス」、SPARKSを始めとするニッチ・ポップの影響を感じさせるミュージシャンは実に少ない。(まだ勉強中なのに言い切ってやった “いいんですね? :注釈 編集部“ )捻った曲展開を得意とする人たちは多く存在しているが、しかし断じて「英国印」ではない。TOD RUNDGRENやCAROLE KING、要するに「米国印」。それらは本場アメリカ程乾いていないし日本人らしく湿ってもいる。しかし暗さが無い。言わゆる「どんより」成分が足りない。

 何故「英国印」が少ないのか、ここからは推論。英国ロックには米国音楽への憧憬、劣等感が滲んでいる。その微妙なニュアンスは、英米両国の影響をニュートラルに発露しようとすると、うまく生み出せないのではないか。ミュージシャンの立場として英国偏愛が必要だ。前述のBEAT路線やプログレ路線には、アティテュードも含めて偏愛に溢れた多くのミュージシャンが居たが、ニッチ・ポップ・ラインには少なかったということ。

 以上、強引な持論を展開したが要するにスカートは「英国印」だ。しかも加藤和彦、杉真理、松尾清憲、CARNATIONは自分に取っては後追いで聴いたが、スカートは違う。たった今、登場してくれたミュージシャン。生まれてくれてありがとう。それなのに書き始めるのが遅くなってごめんなさい。リリースされた12月に書いてあげたかった。

 さて、スカートは、yes,mama ok?、昆虫キッズのサポートメンバーとして活動する澤部渡の一人バンド。基本は一人で多重録音により制作。5曲でゲストが参加している。前述した通り、多重録音と言っても「PET SOUNDS」じゃない、「RAM」だ。MY SPACEの影響欄にはyes, mama ok?/豊田道倫/すきすきスウィッチ/MOONRIDERS/CATNATION/SPARKS/BLOSSOM DEARIEと書かれている。この並びからすると、それ程英国偏愛でもない。さっきまでCARNATIONだと思っていたがよく見るとCATNATIONじゃないか。そのグループは知らない。「・・・・」。しかし、yes,mama ok?のサポートを通じて、SPARKSへの愛を深めたのだろう。いや、きっと深めた。MY SPACEのポートレートを見てほしい。この薄幸な佇まい、只者ではない。ブリティッシュだ。

 一人バンドらしく多彩な音楽性を見せたアルバムだが大きく分けると二つの軸に分けることが出来る。Paul McCartneyを思わせる 柔らかいメロディが印象的なアコースティック・ナンバーと、重いビートを強調したバンド編成でのロック・ナンバーだ。

 打ち込みを導入した楽曲などもあり、スカートの音楽は現在のシーンならではの膜をまとっている。ただバンド編成のものも含めて全編内向きのエネルギーで、籠もっているサウンド。どんより成分80%オーバーだ。以下、楽曲毎に触れてみよう。

1. ハル 
エレキ・ギターによる弾き語り楽曲。 ゲストで参加しているチェロ奏者“失踪”によるチェロとエレキ・ギターが絡み合い、幻想的な美しさを湛えている。例えるなら『ROY WOOD/BOULDERS』の如き趣(おもむき)。終盤に登場するキーボードも鮮やか。

2. 花をもって
バンド編成楽曲。普通にやればドライヴするロック・ナンバーなはずだが、2速までしか入れていない感じがするローな感覚。少しかすれたヴォーカルはあくまで自然体で、決して力んでいないのが要因の一つだろう。フェンダー・ローズのキラキラとした音色が、アクセントになっている。

3. Taroupho
 プログラミングを導入した鍵盤弾き語り調ナンバー。この曲に関しては日本由来の情緒的なメロディが印象的だ。これも普通にやれば感動ヴァージョンになりそうだが、ホーン・セクションによるほのぼの感と電子音のデジタル感がミックス。不思議な曲となっている。

4. スウィッチ
バンド編成だが、全て一人で録音した楽曲。冒頭、あまり聴いたことのない、まったりとしたディストーション・ギターに面食らう。中盤に登場するシンセサイザーが、愛嬌たっぷりのPOPなフレーズを奏でており、ヘヴィ・ロックであるべき楽曲を一筋縄ではいかないものとしている。ヴォイス・エフェクトの効果もあり、サイケデリックなムードも漂う。

5. 千のない
バンド編成によるミディアム・ナンバー。(米国の方の)NIRVANA調のギター・リフが引っ張るグランジーな曲だ。痛々しい哀願ソングながら、ポコポコいっているパーカッションが茶目っ気を演出。この曲に関してはブリティッシュではない。

6. 本を読もうよ
アコースティック・ギターによる弾き語り。2分足りない短い曲ながらジェントルなメロディが美しい。ラストに配された多重録音のコーラスがファンタスティックな余韻を与えてくれる。

7. 3と33
豊田道倫を彷彿させる衝動ロック・ナンバーを一人多重録音で再現した、という趣。豊田道倫も籠もっているが、こちらはより醒めてスタイリッシュな感じがする。手数の多いドラム、中盤部での流麗なギター・ソロ、と確かなテクニックを感じさせるアンサンブルは焦燥感が見事に表現されている。

8. ディスコミュニケーション
WINGS、あるいは英モダン・ポップといった風情のポップ・ナンバー。ホイッスル、マンドリンのコミカルな味付けが、溢れる哀愁を際立たせている。

9. おまえ
ピアノによる弾き語り。1分半で終わってしまうが哀愁のメロディを歌い上げる暗鬱コーラスが病みつきになる。

10. S.F.
フェンダー・ローズが煌びやか(きらびやか)に響くアコギ弾き語りナンバー。スカートにしては珍しく、爽やかな聴感でネオ・アコースティックを彷彿させる。

11. ポップソング
およそ、タイトルに相応しくない重低音サウンド。爽やかな音色を敷き詰めているオルガン、情感を込めたヴォーカルによる、ドラマティックな主旋律が重低音なアンサンブルから浮かび上がる。弱々しい口笛もグッド。

12. ゴウスツ
女性ヴォーカルをフューチャーしたバンド編成曲。導入部、寂しさを湛える女性ヴォーカルから、前向きなエネルギーを感じさせる男性ヴォーカルへとスムーズに流れ、クライマックスには荘厳なオルガン・ソロが登場。ドラマティックな曲展開。

13. わるふざけ
サックス・クインテットを導入、ジェントルなメロディが際立つアコースティック・ナンバー。ノスタルジックなサックスの響きにほっと一息つくところでアルバムは終了となる。
 
 白黒で表現された廣中真吾による見開きジャケットも素晴らしく、イラストの男性の佇まいからは諦観に達した穏やかさが感じられ、スカートの音楽性を見事に表現。
 
 振り返ると強引に英国押しをしすぎてしまったが、そこを抜きにしても抜群の存在感を放っているスカート。ここから隠し味の出自を楽しみ、ルーツを遡っていくという過程も素敵だと思う。幅広い音楽ファンに聴いてもらいたい。手作り感溢れる紙製ジャケットの裏面にはよく見ると「初版」と記されている。こういう素晴らしい音楽こそ、どんどん重版されるべきだ。是非店頭で注文されたし!

しばた・かずよし。1973年、神奈川県生まれ。カケハシ・レコードに勤務すると同時に、CDショップ大賞実行委員としても日々活躍中。初めて自分で買ったCDは「ビージーズ」と「ドナ・サマー」のベスト盤。好きなアーティストは「LED ZEPPELIN」や「(ガブリエル期の)GENESIS」。HM/HRを聴いて育ち、極端なブリティッシュロック好きではあるものの、70年代までの音楽であれば、日英米問わず押し並べて好き。実は90年代以降のJPOPは5年前まで、ほとんど聴いていなかったというハンデはあるものの、やっぱり音楽は選り好みせず色々聴いたほうが楽しい、つくづくと実感中。ちなみに、最近携帯電話を携帯している。