「勝手にライナー・ノーツ選盤基準」。
その1:基本的に「ライナー・ノーツが付いてないもの」を対象とします
その2:主要CDショップのHP上でも、まだレビューされていない作品をピックアップします
その3:もちろん、私自身が購入しオススメ出来るもの。CDショップ大賞推薦候補かも。
その4:当面、JPOPの中からセレクトします
今回、取り上げるのは長野出身のロック・バンド、「砂場」のファーストアルバム。タイトル通り、聴くものに郷愁(色々、新しい表現を試みるも、結局バウンディの資料から拝借)を抱かせるメロディが印象に残ります。バンドの個性が伝わる、見事なデビュー作です。
まず、バンドの成り立ちから。信州大学ビートルズ研究会所属のメンバーが母体となり、2003年頃から「砂場」として活動開始。メンバーは、長野の名物ライブハウス、ネオンホールにて経験を積みます。その後、リズム隊の2人である浮田と畠山は東京へ、作曲担当の宮崎は名古屋へ、それぞれ転居。メンバー間の拠点が遠距離になったのを逆手に取り、名古屋、東京、長野、を精力的に活動中。2010年、遂に全国流通のCDをリリース(本作)。以上が「砂場」の歴史です。
今回のお題
「砂場」の個性は、何といっても抑揚とメリハリが利いているヴォーカルの節回しに尽きると思います。標準語圏でも、関西弁圏でも表現出来なかった、信州弁をルーツに持つ彼らだけが表現することが出来る「郷愁」を感じ取ることが出来ます(ちなみに歌は全編標準語です)。自在にくねくねと歌い上げるヴォーカルメロディに演奏が付いていっているという印象です。そのバンド演奏は、トリオらしく隙間が心地よく、90年代以降の英米ギターロックの影響を受けたオーソドックスなものです。ドラマティックな楽曲が多いながら、ストリングスは一切使用しておりません。時に隙間を埋めていく、饒舌なギターの音色は、ざらついた味わいがあります。叙情的なメロディをより鮮やかに浮かびあげています。字あまり気味の歌詞を吐き捨てて、疾走感を大事にするバンドが多い昨今ですが、「砂場」は、ミドルテンポからいかにメロディを捏ね繰り回すかに執心しています。非常に希少であり、好感が持てます。
今回のアルバムは、1STらしく貯めていたマテリアルから選び抜かれた内容なのかもしれません。ハイライトはタイトル曲。本作の中では一番新しい楽曲ですが、「砂場」の個性が集約された名曲。静から動へと盛り上がっていくドラマティックな展開が、リスナーの期待感を煽ります。最高の配置です。他には、彼らの持つ叙情性が引き立つバラードナンバーの2曲「黒い猫と白い猫」「回想列車」も、素晴らしい仕上がり。難を言えば、楽曲のバラエティ、個性の確立という点では、まだ改善の余地はあるのかもしれません。しかし、それを補って余りあるアルバムの統一感。クライマックスが最後まで持続する、ブレないスタイルがあります。
最後に、バンドの成り立ちのところで触れているネオンホールについて、説明を加えておきましょう。ネオンホールは長野県内で活動するアーティスト達が協力し合って運営している、長野市権堂に居を構える、ライブハウス/小劇場/アートスペースです。東京、京都を中心として、様々な個性豊かなアーティストを出演させることで、地元、長野のアーティストへ大きな刺激を与えており、結果、独自の音楽シーンを形成することに貢献しています。かつては、年1回コンピレーションを制作、発売しており(ここ数年は無いのが寂しい)、そこでは全国流通していない長野のアーティストの紹介の他、友部正人など縁の深いアーティストの未発表音源も聴くことが出来る内容の濃いものでした。このコンピレーションの素晴らしさももちろんですが、興味を持たれた方は是非一度、ネオンホールに足を運んでみてください。私も一度は行ってみたいです。