- 第10回
- 清 竜人

今の自分へと続く、あの頃の自分が初めて買ったレコード。そして初めて足を運んだレコードショップ。どんなアーティストにもある“原点”を探る、『マイファーストレコード』。第三回目に登場したのは、2年2ヶ月ぶりにアルバムをリリースした元ちとせ。「100年に1人」とも言われる奇跡の声を持つ彼女はかつて、CDショップ店員だったのだ!
撮影 渡辺誠 文 朴順梨

- GAO
- 「サヨナラ」
初めて買ったCDですか? 小学校高学年か、中学生ぐらいの時だったかな……、GAOさんの『サヨナラ』ってシングルです。なぜ買ったかというと、GAOさんが男なのか女なのか、その確認をしたかったから(注・ユニセックスなルックスでヒットを飛ばしたGAOは女性で、その後は“Real-G”と改名。ラッパーとして活動を続けていた)。でも結局性別はわからないまま、「いい歌だな~」って思いながら聴いていた思い出がありますね(笑)
奄美大島で生まれ育ったことから、気がつけばすぐそばに島唄があった。それは生活の一部であり、そして自分を築くための、いわば栄養にもなったと語る。
私の傍らには、気がついたときから当たり前のように島唄がありました。だから歌謡曲も聴いていましたが、圧倒的に島唄の方が聴く回数が多かったですね。完全にDNAに組み込まれていました。でも「おじいちゃん、おばあちゃんのもの」ってイメージもあったので、中学生の頃に島の中心街で島唄を歌うこともあったんですけど、それを同級生に見られるのは恥ずかしかった。だって、「かっこ悪いもの」とか「ババくさいもの」だと思われていたから。でも島唄を歌うことが私は大好きでした。何より楽しかったし、それを聴いたおじいちゃんやおばあちゃんが涙を流してくれるのを見て、何度も心が揺れましたから
しかしその後選んだ道は、歌手ではなく美容師。だが一度は就職したものの、アレルギーのために断念せざるを得なくなった。それがきっかけで再び音楽を志し、なんとCDショップでのアルバイトも経験したそうだ。
美容師を断念してデビューするまでの1年2ヶ月間、HMV数寄屋橋でアルバイトしたんですよ。「ただひたすら歌い続ける」っていう状況が自分の中で想像がつかなかったのと、全く音楽を知らなかったので、音楽に触れられる場所に身を置いてみたかったんです
店頭に立ち、様々な音楽やお客さんに触れる日々。初めて尽くしの経験だったが、忘れられない思い出にもなったと当時を振り返る。

- 宇多田ヒカル
- 「First Love」
今までまったく音楽を聴かなかった私が、色々な音に耳が向くようになったのが大きな変化でした。ちょうどその頃、宇多田ヒカルさんのファーストアルバムが出たんですけど、iphoneもビックリのものすごい行列が出来て、片時も休まずにレジ係として販売し続けた記憶があります。もう本当に休めなくて、手が痛かった!(笑)。
HMV数寄屋橋はスタッフ同士の仲が良かったし、全員音楽好きなんだけど、その好きっぷりは人それぞれ違っていたのに、お互いに尊重し合っていた。だからとても居心地のいい場所だったんです。そして今まで出会ったことがないような濃いキャラの人達ばかりで、毎日がドラマみたいでしたね。私はレジ担当だったんですけど、シフト表に“RG”って書かれていたんですよ。J-POPなら“JP”と略すのは知っていたので、「なんでレゲエなんだろう?」って思っていたら、「レジ係」の略だったとか(笑)、楽しい思い出ばかりです
そしてこの時に知った「音楽をプレゼントする」ということ。島での生活では味わったことがなかったギフト形態に、思わず感動してしまったそうだ。

- 武下和平
- 「立神」
奄美では松屋っていう、文具売場の奥にCDが置いてあるショップに通っていました。武下和平さんっていうおじさん、もうおじいさんかな? 奄美出身で今は大阪に住んでいる、完璧な島唄を歌う方の音源をよく買ってたんですよ。でもそこはスペースが限られていたので、新譜やメジャーなもの以外は、注文しないと手に入らなかったんです。だから10代の頃は、誰かにCDをプレゼントするなんて考えたこともなかった。だけどHMVには「娘に贈る」って言って1人で同じCDを何枚も購入する人や「プレゼントにしたいから包装して」って言うお客さんが結構いたんです。私はこの時初めて、音楽を誰かにプレゼントするっていう素敵なことを知って、感動を覚えたんです

7月16日、2年2ヶ月ぶりとなるアルバム『カッシーニ』をリリース。スキマスイッチの常田真太郎や坂本龍一、そして今年3月に他界した上田現まで、多くのクリエイターが彼女の歌声に、鮮やかな彩りを加えている。
「タイトルにもなった『カッシーニ』って言葉は、上田さんから「土星の輪っかだ」って説明を受けました。好きな人の周りをぐるぐる回るためにあるもの、それがカッシーニのイメージなんです。
このアルバムは“家族”や“絆”がテーマになっています。たとえばスキマのシンタくんが作ってくれた『蛍星』は、家族や仕事仲間に会える場所が帰る場所だし、蛍の光のように儚すぎて見えない光のようなものに目をこらせば、本当に大切なものが見つけられるんじゃないかという思いが込められているんです。人は時に自分を分かって欲しいがために、相手の気持ちを考えずに押し切ってしまうことがあると思うんです。でもこのアルバムが例えば「この人とここに一緒にいられることが幸せなんだ。だからあの人にひどいことを言ってしまったけれど、今度会った時に謝ろう」って思うような何かのきっかけになれば……、すごく嬉しいですね
元ちとせさんに影響を与えたCDショップって、どんなところだろう?と興味を持った編集部。HMV数寄屋橋まで行ってきました。そのレポートはこちらから!






