- 第10回
- 清 竜人

今を生きる誰にとっても、原点はきっとある。そして今を輝くアーティストにとっての原点は、初めて手にしたレコードやCDに違いない。
『マイファーストレコード』の第6回に登場するのは、紅白初出場を果たしたいきものがかりのボーカル、吉岡聖恵嬢。喜びさめやらぬ中でのインタビューで語ったのは、かつて折れそうになった心を支えてくれた、思い出の1曲との出合いについて。さてさて、その曲とは一体?
撮影 渡辺 誠 文 朴 順梨

- Mr. Children
- 『Tomorrow never knows』
初めて買ったアルバムは覚えてないけど、シングルは、Mr. Childrenの『Tomorrow never knows』です。これは当時放送していた、『若者のすべて』ってドラマの主題歌でした。自分は小学4年生だったんですが、このドラマは恋愛のドロドロがあって、それが子供にはものすごく大人っぽ過ぎる感じで。「こういう世界があるんだ」って思いながら毎週見ていたんですが、この曲も明るい中にもトーンダウンした部分があって。今まで触れたことがない、新しい世界を感じていたんです。というのも自分は合唱団に入っていて、童謡やミュージカル音楽ばかりを歌っていたので、それまであまりポップスに触れる機会がなかったんですよ。ちょうどこの頃から、邦楽を聴き始めるようになったんですよね。
中学でも合唱部に入り、高校の学園祭で披露したのは、JUDY AND MARYのコピーバンド。そして15歳の時にはもう、いきものがかりとしての活動を始めていた。当然将来の夢は「歌を歌い続けること」。しかし音大に進学した後、しばらく歌に自信が持てない時期が続いたそうだ。だがそんな思いを乗り越えるきっかけになったのも、やっぱり歌だった。

- 森山直太朗
- 『生きとし生ける物へ』
歌をもっと勉強したいって気持ちがあったので音大に進学したんですけど、すごく悩んでしまって。なんかね、一歩前に踏み出したいと思っているのに、どうしていいかわからなくて。毎日憂鬱な気持ちにつきまとわれて、何もできないままだったんです。そんな日々を過ごしていた時に、森山直太朗さんがテレビで、コーラス隊を従えて『生きとし生ける物へ』を歌っていたのを見たんですよ。感情を吐き出すようにして、いのちをテーマにした曲を全身で歌いあげるその姿を見て、“生きている感じ”が実感できたんです。すごく苦しそうに歌ってるんですよ。眉間にしわ寄せながら(笑)。でも自分自身もすごく苦しい時期だったから、「この人も何かと戦いながら、もがきながら歌ってるんだなあ」って思って感動してしまって。
それだけじゃなくて、森山さんの声や歌い方も、その時の自分が憧れていたものだったんです。自分は昔から好きなようにずっと地声で歌ってきたので、裏声がうまく出せなかったんです。でも本格的に歌を学んでみると、裏声と地声の両方が必要で、そのバランスを取ることで色んな歌が歌えることが分かったんです。なのにどれだけ練習しても、自分が望むような裏声が出せなくて。「もっと伸びやかに歌いたいのに、表現したいのに」って毎日悩んでいました。その理想の声の持ち主だったのが、まさに森山さんだったんです。地声もステキだけど裏声もきれいで、声量もある。歌い方には繊細なところと思いきったところの両方があって。森山さんが「もう一度歌いたい」って思ったきっかけになりました。今でも悩みや憂鬱な思いはない訳じゃないけど、辛い時期を乗り越えた感覚はありますね。そして何があっても、「あの時ほど辛くない」と思えるようになったんです。
いきものがかりの歌詞には“大橋”や“小田急線”など、青春時代を過ごした厚木や海老名の風景が登場する。もちろん地元のCDショップも、身近な場所だったに違いない。
海老名の新星堂さんには、デビュー前からずっと応援して頂いてます。新星堂さんが入っている『ビナウォーク』 ってショッピングモールで、何回かライブをやらせてもらったことがあるんですけど、ステージに立つと知り合いが何人も見えるんですよ。ばっと目が合うとクスッと笑われて、「ああいっぱい来てるなー」って。
インディーズの頃からすごく力を入れてくださって、自分のことのように応援してくださっているんです。最初にビナウォークでやったライブには、30人ぐらいしか集まらなかったんですよ。なのにずっと応援してくれたので、その後どんどんお客さんが増えていって。結果的には、7000人ぐらい集まる日もありました。
応援してくれるまなざしや拳に、力が入っているのがすごくわかるんですよ。それがあったから、「歌いたい」って気持ちに加えて「海老名と厚木から、一旗揚げてやる!」って思うようになって。地元からの力って、励みになるんですね。
ダウンロードで音楽が買えたりするのはすごく便利だと思うけど、CDの存在感ってすごく好きなんですよ。手に持った時の重みってあるじゃないですか。私は自分が好きなアーティストのCDを買って、封を開ける瞬間がすごく好きなんです。透明なビニールを「どこから開けるんだろう?」って迷ったりする時や、爪でシュルシュルって開ける時に幸せを感じます。音楽は目には見えないけれど、ここにあるよって感じがジャケットを通して伝わってくるところもすごく好き。色々な録音再生機器がありますが、いまだに歌詞カードを持ち歩いていて、それを見ながらCDで聴いてますね。
2006年にメジャーデビューして3年目を迎えた今年、NHK紅白歌合戦に初出場が決定!そこで今の気持ちと、抱負を語ってもらった。
きっと一年のうちで一番多くの人が見ている音楽番組だし、見てくださる方の年齢層が広いじゃないですか。いきものがかりは小さい子から年配の方まで、皆に聴いて欲しいと思っているので、紅白歌合戦に出場できることは、本当に嬉しいです! 発表の当日、私達は何も聞いていなくて、本人達が知らないってことは多分ダメだってことだろうと思って、メンバー全員朝からどんよりしていたんです。「来年また頑張ろう」って思っていたらスタッフが笑顔で教えてくれたので、もうビックリでした。
ここ2~3年の恒例行事なんですけど、メンバーとスタッフでとある神社に初詣に行って、そこでおみくじを引いてるんです。2008年はメンバー全員が大吉だったので、「何かいいことがあるといいな」って思ってたんですよ。2009年も紅白が終わった後、皆で神社に行くと思います。次も大吉出したいです、いや、出します(笑)!







