第17回CDショップ大賞2025
大賞<赤>受賞
柴田聡子さま
大賞受賞記念 インタビュー

――『Your Favorite Things』で、第17回CDショップ大賞2025 大賞《赤》を受賞した柴田聡子さんに、受賞の感想やCDショップとの思い出を大いに語っていただきました。聞き手は、CDショップ大賞実行委員会のタワーレコード商品統括部の久保山拓耶さん。柴田さんのCDショップへの愛、そして現場で働く久保山さんの視点。活躍する場所は違えども、音楽に関わる仕事をする者同士の対話をお楽しみください。
手応えを感じた作品での受賞 嬉しくて焼肉に
――第17回CDショップ大賞2025 大賞《赤》の受賞、おめでとうございます。受賞の知らせを聞いた時の感想を教えてください。
柴田聡子さん(以下、柴田):ありがとうございます。本当に、本当に驚きました。驚いたし、焼肉に行っちゃうほど、嬉しかったですね。一緒に作った人たちにも、いち早くお伝えしたいって思いました。
――焼き肉に行った話からも、喜びが伝わってきます。毎回、素敵な作品をリリースされますが、今作は特に手応えがあったとか、自信があったということだったのでしょうか?
柴田:そうですね、良い作品ができたなって思ったし、一緒に作った人たちとも、やっぱり良い作品ができたねっていう気持ちを共有してはいたので。今までも、アルバムを作るときは良い作品を作りたいっていう気持ちではいたんですけど、みんなでここまで手応えを持って「いいのができた、聴いてほしい」って強く思ったのは、ある意味初めてというか。ちょっと今までとは違う手応えだったので、そう思っていました。
――そうなんですね。一緒に作った方々からは、どういった反応がありましたか?
柴田:まずは、プロデュースに一緒に入ってもらった岡田拓郎さんに、電話したんです。そしたら、「おぅ〜!やりましたね〜」みたいな感じで。それで、バンドメンバーには、もうちょっと間を空けてから話したんです。まず、入賞した時点で。みんな「うわー!」みたいな感じで、「やったな!」って、みんなでこうやって(拳を突き合わせるジェスチャーを)したんです。でも、まだみんなには、大賞<赤>を受賞したことは、対面で言ってはいないんですけどね。(2025年2月時点)でも、喜んでくれている、と思う文面のLINEが返ってきたので、良かったなと、はい。
自分が一番親しんだメディアCDだからこそ 嬉しさひとしお
――私たちはCDショップ大賞という「CD」に焦点を置いた賞を行っています。音楽の聴かれ方が多様化している中、「CD」として作品が支持された点については、どう思われていますか?
柴田:嬉しいですね。CDって年々、年を追うごとに、みんな出すみたいには、ならなくなってきたなというか。自分も、なんて言うか、その境目にいる一人のように思うんです。ものすごくCDが売れるだろうっていう人しか、出せなくなっていくのかな?とか、そういう気持ちもあったし。私もいつまでCDで出せるのかな?CDを出してもらえるのかな?なんて思いながらいます。
とはいえ、CDは自分が一番親しんできたメディアでもあったので、こういう賞を頂けるとか、そういうことはすごく嬉しいです。CDって、すごく聴きやすいし、所持もしやすい。そして音も安定というか、いつでも同じ音質で聴ける。サブスクリプションとかは、プラットフォームの判断が大きくて、それに合わせていかないといけないとかが、大変だなと思うんで。フィジカル(*CDなどのパッケージ商品を指す)として、自分は持っていたいなと思う作品も多いので、受賞は嬉しかったです。
――CDなどは、やはり永遠に持っていられるもの、という感じでしょうか?
柴田:そうですね。なんか、すごいですよね、CDって小さいですし。アナログレコードってなると、場所も取るけど、物質としての何か安定感もやっぱり大きいし。あり続けてほしいって思います。
――そうですね。CDから少し話はそれますが、柴田さんは、LPやカセットなども精力的にリリースされていると思うのですが、そういった商品への思い入れもありますか?
柴田:私は幸いにも、ファーストアルバムをリリースした時から、身近にアナログレコード好きな人が、たくさんいらっしゃって。「レコードにしようよ」って、ずっとお声がけいただく機会があったんです。それがきっかけで、レコードを聴き始めたぐらいなので。レコードとか、カセットとかって、愛らしいメディアというか。そういうものを、情熱的に愛している人たちの“凄み”みたいなものを、ずっと感じていて。私は、たくさん買ったり、常にディグったりしているタイプではないので、そのメディアの維持に貢献しているかは、ちょっと分からないんですけど。なんか、そういう引きつける魔力みたいなものとか、魅力があるメディアなんだなって、すごい尊敬の念があります。そして、それをみんなで支えているっていうか、生き残らせて愛している感じが、やっぱすごいなって思っています。
今、思い出しても“たぎる” 10代の思い出が溢れるCDショップ
――CDのみならず、LPやカセットへの柴田さんへの愛情が伝わってきました。柴田さんご自身は、CDショップとの思い出やエピソードはありますか?
柴田:私は札幌市出身なんですけど、札幌には、タワーレコードピヴォ店(タワーレコード札幌ピヴォ店:2022年8月7日営業終了)があって。今はなくなっちゃって、札幌のパルコにあるんですよね。(タワーレコード札幌パルコ店:2022年9月16日札幌パルコ本館7Fにて移転オープン)それで、札幌ピヴォ店へ本当に通い詰めていて。何ていうか、夢の空間っていうか。行ったら、試聴機にCD10枚ぐらい聴けるものが入っていて。今思えば、迷惑なお客だったと思うんですよね。独占して聴いている、みたいな感じだったと思うんですけど…。
――いえいえ、迷惑ってことはないです!タワーレコードとしては、本当にたくさん聴いて頂いた方が嬉しいですよ。ちなみに、試聴機は「10連試聴機」ですね。
柴田:よかったです。行くたびに、試聴機の中身が変わっていて。そこで、しこたま聴いて。お金もそんなにないですし、学生だったし。そして、1,000円くらいの洋楽廉価版とかを知ったときの喜び!「なぜか、これだけ1,000円だ!同じアルバムなのに。」みたいな。ビジネス的には、あんまり皆さんの実にはならないのかもしれないんですけど。本当、あのときの嬉しさたるや。「これなら、5枚ぐらい買える!」ってこととか。なんか、タワレコに行くことの楽しさって、やっぱり今、思い出しても、たぎりますね。エスカレーターに乗って、友達とお店に向かう感じとか。
――ありがとうございます。時代と共にお店も移転したり、坪数も少し減ったりしていますし、試聴機も、コロナ禍では一旦、下げてしまったこともありました。徐々に戻してはいますが、やはりかつての規模に比べると、若干小さくなっています。
柴田:私にとっては、札幌ピヴォ店も思い出深いし、たしかCOLONYってライブハウス(2020年にコロナの影響で閉店)の上か隣にあった、フジロック・オフィシャルショップのGANBAN /岩盤も、結構入り浸ってましたね。お店は、ちっちゃくて、しかも置いてあるものも、その時にフジロックに出るアーティストのものとか、グッズとかしかなかった記憶なんですけど。でも、お兄さんの音楽話を目当てに、友達と通い詰めて。「ジェリーフィッシュ(アメリカのロックバンド)が良いよ。」って言われて、「そうなんですね!」って感じで、音楽の話を聞きに行って。高校生くらいの時ですね。
――10代の思い出ですね。私たちとしては、今の若い方に、そういった魅力をどのように伝えるか?を考えています。アナログレコードも流行していますし、タワーレコード渋谷店もフロアを拡充していますが、メインのお客様は海外の方やエルダー層の方が多い印象です。
柴田:若い方は、あまり…という感じなんですかね。確かに、私もやっぱりサブスクリプションがあるようになってからは、買う量が本当に減っちゃいました。時の流れ、といった感じもしますが。
でも、めちゃくちゃ“ザ・余談”なんですけど、ちょっと部屋の整理をしなきゃいけなくて、CDをかなり厳選した時期があったんです。結構な数を手放したことはあったんですけど、その時に改めて、「フィジカルで持ってるって本当に幸せだわ」って感じて。好きな作品はフィジカルで買っています。やっぱCDって良いなって思ったんですよね、すごく。やっぱり改めて買うべきだ、と手放してから思ったんですよ。また、私はきっと増やしていくと思いますよ、CDを。CDは良いな、CDは良いです、うん。持ち歩けるし。それに、「BGMにしてください」とか言って、差し出したりできるし。
――柴田さんご自身の自己紹介として、CDを渡すことがあるんですか?
柴田:はい、CD渡してます。それに、私と一緒にやってくださっている関さん(SPACE SHOWER MUSIC A&R、レーベルマネージャー)は、担当しているアーティストのCDが入ってるプレスキット(メディアや関係者に向けて渡す宣伝材料のようなもの)を作ってて。私は、あれはすごいなと思っていて。私も関さんから、違うアーティストのキットを貰うたびに嬉しいんです。あとなんか、「よし、聴こう!」みたいな気持ちも、すごくなるし。リンク(楽曲の試聴URL)とかよりも、聴こうって気持ちになるのは、ありますよね。なんでしょうね、この不思議な心の動きは。なんか、CDの便利さも魅力だな。モノとして渡せるとか。本は、そういうのが無理だなって思いますし。もし自分が本を出す時に、いろんな人に「これサンプルで…」みたいことはできないなと思いますし。確かにCDはすごい発明だと思います。
――ありがとうございます。CDショップ大賞アンバサダーぐらいになって頂きたいくらいです。やっぱり、そう言った愛情は、ご自身がCDショップに通われた背景がありますか?
柴田:アンバサダーになれたら、こっちこそ嬉しいです。CDショップに通っていた思い出があるのは、私達が最後の世代ってとこもあるかもしれないですよね。もうちょっと下になると、また少し違う感じになってるのかなと思うんですけど。これぐらい抱えて(両手にCDをたくさん抱えているジェスチャー)、レジに行くときの恍惚感とか、忘れられないですね。バイト代入った後とか。タワレコのポイントも溜まりやす過ぎて。ポイントカードを忘れた時の絶望感がすごかったですよ。やばい(笑)ココナッツディスクとタワレコのポイントのたまり方は異常ですよ。
柴田:吉祥寺ですね。池袋も、結構行ってました。ココナッツディスクは、私が1人で夜なべして、糊とか付けて作っていた自主制作CD-Rを扱ってくれたことがきっかけで知り合いました。しかも、何回も入荷してくださって、また何枚お願いします、って。そんなことあるんだなと思って嬉しくて。糊付けして自分でプリントアウトして、よく納品とかに行きつつ。ココナッツディスク吉祥寺店の店長の矢島さんは、もうずっと見てくださっていて、嬉しいですね。でも、本当ポイントたまり方異常です(笑)あんなたまるお店はないですね。