元気が出るCDショップ 100回記念スペシャル
「これからのCDショップのあるべき姿とは」
事務局「100回記念おめでとうございます。今日は今までを振り返りつつ、”元気が出るCDショップの”一つの区切りとして、総括的なお話を伺えればと思います。まずはこのコーナーが始まった経緯について、初めて読む方もいらっしゃるかと思うのであらためてご紹介いただけますか?(なお、“つのはず誠”さんというのはペンネームで、ここでは本名の臼井孝さんとお呼びしています。)」
臼井「もともと、CDショップの魅力をもっとアピールしたいと常々思っていたんです。CDなんてどこで買っても一緒と思われがちですが、実際に通ってみてお店によって色んな特長があると気付いたからなんですね。
CDショップを周ろうと思い始めたのは、仕事でCD購入者やLIVE入場者などお客様のアンケートを分析していたのですが、その中で自分の知らないCDショップが「購入店」や「購入のキッカケ場所」として回答に挙がるのを見ていたからです。データとして、その事実を知ったとしても、実際に見ていないと説得力に欠けるわけです。だから、TV番組や雑誌、Webサイトなどもチェックするように、CDショップもそうしないと、ただの“データバカ”になっちゃうと思っていました。
そんな中、ある雑誌でヒットに関する意見が発表された際、ネット上で大きな反論が沸き起こり、たまたま、その雑誌でヒットチャート系の連載をしていたという私宛に大量の批判が集まったんですよ。意見したのは私じゃないのに、”事件は会議室で起こっているんじゃない、現場を見てからモノを言え”みたいに。でも、大誤解とはいえ、現場を見ていないのは痛感していたので、そこから実際に回り出したのが今から14年前です。
実際に自分の目で見てみると、すごくいいCDショップがあるんだな、と気づきましたね。北海道では男性R&Bが強かったり、九州ではバンドやフォークが強かったり、北関東や東海地区ではカーユーザー向けの音楽が強かったり、とデータでは知っていたのですが、それは、単に各地域のお客様の特性だけではなく、CDショップの方々がそういう作りを後押ししている影響も大きいと分かりました。
また、地方に行けば行くほど都心で売れている音楽がいかに浸透していないかが分かったり、またその逆で、都心では時に「こんな古臭い」と揶揄されがちな作品が実は大人気で熱い支持を受けていたり、そんなこんなが面白くて10年ほど経ったときに、事務局よりお声掛けいただきました。」
事務局「そうですよね、ちょうどCDショップ大賞が始まって2年目くらいですか、そんな噂を伺って、全国のCDショップ店員からの投票でCDショップ大賞を立ち上げる時にCDショップの魅力を伝えられたらなという事で連載をお願いしました。」
―元気なショップには買いたくなるマジックがある―
臼井「1店目の紹介は、まず徳島市のディスクステーションAWAさんを思いつきました。」
事務局「それは何故?」
臼井「お店の規模や外観からは想像できないほど、作品ごとのコメントカード数が半端なく多かったのです。インディーズもメジャーも問わず、当時知らなかったアーティストも多くて、例えば[Alexandros](当時の[Champagne])などバンド系は特にここでネクスト・ブレイク系を随分とメモって帰った記憶があります。こちらのショップは演歌店としても人気ですが、その近くにないタワーレコードやアニメイトなど、○○の代替店というCDショップも重要なんだなと、実際に地の利などを体感して気づいたことも多いです。地域によっては、簡単に行けないお店もありますからね。」
事務局「そういう役割も担っているんじゃないかと….」
臼井「はい。とにかく、ここではバンド系や地元アーティストに対するコメントの熱量が大きいと感動したのです。」
事務局「そういう熱量がスゴく伝わるCDショップを中心にスタートして足掛け6年。約100店舗、ですよね。北海道から沖縄まで。印象に残っているショップはありますか?」
臼井「ディスクステーションAWAさんの他には、武蔵小山のPETSOUNDSさんや、それから震災の2年後に行ったスクラム石巻店さんは、復興のイメージとは裏腹に、街が被災したままの部分もまだまだ残っているのを目の当たりにしたり、震災直後の写真も拝見したりして、衝撃は大きかったですね。でも、震災を機に地元のライヴハウスと連動した展開やポイントキャンペーンを始めたと聞きました。ライヴハウスにも有名アーティストが多数来るようになって、その帰りがけに第3回CDショップ大賞のandymoriがお店に直筆のサインを置いてくれるなど、より連携が進んでいるなぁという気がしました。
他には、第100回でご紹介した音楽処さんを早く紹介したいなと思いつつ、音楽ファンには有名すぎて紹介するのも今さらかと物怖じしていたら、大トリになってしまいました。(笑)
音楽処さんには、随分まえのリリースも含め、以前に作ったPOPが進化して現在にいたる展開コーナーが多数あります。そういう発売時期は関係ない、お客様に是非聴いてもらいたいから純粋に推しているといった点が魅力ですよね。元気なショップには何かしらのマジックがありますね。」
事務局「マジック?」
臼井「それはやっぱり愛情のマジックと言うのでしょうか、展開コーナーからある種の熱を感じると、そこは紹介しなければと思いますし、いい商品があればそこで買いたいと思いますよね。それは、きっと他のお客様も感じられるのだと思います。
販売データからは、CDショップは、なかなかヒットしない作品の中間をフォローしてくれる役割があると、なんとなく感じてはいました。CDショップはそうした“中間の作品”をフォローするような、例えばタイアップシールにない情報や、熱いコメントがあったりして、お客様を促してくれるんだと、実物を見て感じて、より強く認識しました。
具体例を言いますと、浅草のヨーロー堂さんみたいに、演歌が圧倒的に売れるショップだけれど、演歌王子が好きな人には、王子的なJ-POPのこの人、クラシックならばこの人、という風に紹介できる、クロスオーヴァーな展開ができる、つまり人々が先入観や情報などで区切ってしまった境界線を橋渡し出来るようなCDショップは、こちらも学びが大きいですし、応援したくなりますね。アイドルだけどロックファンにも受けるようなアーティストを紹介できるお店も元気だな~って思います。」
―リアルショップの魅力―
事務局「リアルショップを見てきた中で、ネットには出来ない魅力を臼井さんはどう捉えていますか?」
臼井「リアルショップには、コアなヒットを大ヒットに導くこと、あるいは、大ヒットを更にロングヒットに引き伸ばす力があると感じています。
ネット通販は、予約特典ものの初動を囲い込むのに非常に効果的です。能動的に動く人は、既に買うものが決まっているわけですから、ネットでサクサク決めますよね。でも、それほどコアファンでもない人、あるいは特定のアーティストが好きでもそれ以外にも聴いてもらえる可能性のある人には、それこそ、ミュージックソムリエ的な人がプッシュすると需要は広がると思うのです。そういう意味ではCDショップは効果的ですよね。」
―コミュニティーとしての場―
事務局「その他にリアルショップならではの必要な事、求められている事は、何だと思います?」
臼井「やっぱり、話しかけられやすい、相談されやすいショップは重要かなと思います。他にも、まだ”買う”という選択までいってなくても、例えば学校や通勤帰りにちょっと立ち寄れるようないわば“コミュニティー”化しているCDショップは元気だなと感じますね。ただ買いにいくだけならば、それこそネット通販で十分ですし。
都心の旗艦店にはどこでもありますが、特に地方のCDショップでは試聴機があるかどうかも大きいと思います。」
事務局「地方と都心のCDショップの違いはなんでしょう?」
臼井「まず、車や自転車で移動するなど、電車移動は多くありませんよね。そうすると、音楽以外にも、ゲームが好きとか、本を買いに来たとか、友達同士や家族で来て、ちょっと暇で立ち寄るなどでも、楽しめるショップはやっぱり面白いと思います。コミックと連動した音楽コーナーがあったり、中高年世代の人が楽しめるコーナーがあったりとか、そこから音楽が広がりますよね。」
事務局「そういう地方ならではの需要も考えられるという事ですよね。」
臼井「そうです、子どもの運転係(笑)で来ているお父さんやお母さんも音楽を提案されれば聴いてみたいでしょうし。音楽って、絶好のアンチエイジング剤だと思いますよ。お子さんと一緒に音楽を楽しんでいるお母さんって、皆元気ですから。」
事務局「最近、CDショップが、レンタルだけ残してセルがなくなるとか、複合施設だったのにCDコーナーがなくなるとかの状況を聞きますが、リアル(セル)ショップのこうした変化をどう捉えていますか?」
臼井「CDショップがなくなると、前に述べた中間のヒットが出にくくなるでしょうね。つまり、ネット通販だけになったら、メガヒットと、コアな作品を求める人だけの小ヒットだけで中間ヒットがものすごく薄くなるんです。その間を繋ぐ橋渡しができなくなるというのは、市場縮小に繋がりますし、音楽ファンとしてもやはり寂しいですよね。だからこそミュージックソムリエやCDショップの店員さんが必要だと思います。
普段の市場分析から販売データをまとめていると、発売から3ヶ月以上2年未満のものは、リアルショップでの販売シェアが高くなる商品が多いんです。
今、気になったとしても、既に発売から何か月も経過しているし、旧譜は置いてないかな…と不安なお客様もいますよね。そういう時に「あそこならば確実に手に入れられるだろう」、と期待されるCDショップは強いと思うんです。
CDショップ大賞や入賞作品のあるMAN WITH A MISSION、マキシマム ザ ホルモン、サカナクションなどは旧譜がちゃんと売れているバンドですね。それは、やはりCDショップの役割がきちんと機能しているジャンルだからだと思います。
こうした中間ヒットを支えているのが、リアルショップの強みだという事を、メーカーや事務所サイドも、もう少し意識して下さればいいなと常々思っています。別に敵愾心をむき出しにしている訳ではないんですけれど(笑)、もうちょっとだけそこをサポートしてもらえたら、もっと市場は潤う気がするのです。
例えばダウンロード販売では、リリースから半年以上経過すると、旧譜は驚くほど値下げされているんですよ。これによって、新規のお客様が半数近く取り込めたというデータもあります。普段はダウンロードなんて興味ないし、レンタルの方が安い、という意識の人も多いと思うんですが、「あ、半額だったら、レンタルに行って借りてきてまた返すのも面倒だし、パソコンに取り込まなくても、すぐにスマホで聞けるんだったら買っちゃおうか」という動機も大きいということですよ。
これと同じような事をパッケージでも実施すれば、もっと需要を上げられると思うんです。一部のメーカーやリアルショップでも実施されていますが、あくまでも懐メロ中心で、ダウンロードと比べればまだまだだなと思いますね。」
事務局「今、再販(価格維持)制度が邦楽はだいたい6ヶ月ですよね?それが原因という事ではないですか?」
臼井「再販が切れた後は、自由な価格でどうぞということでしょうが、ダウンロード販売みたいに仕入れ値ごと半額という訳ではないですよね、きっと。元とあまり変わらない仕入れ値だったら、そんな旧譜は売れにくいと思って仕入れられないし、ましてや仕入れ価格が一緒だったら尚更に積極的に売れない。ところが、ダウンロード販売では、旧譜のプライスオフが、かなり新しめの作品まで積極的に進められて成功しているわけですよ。
CDも、もしどこかの倉庫で不良在庫として積まれているのなら、それを安くショップに仕入れさせてくれたらと思う訳です。難しい問題もあるでしょうが、ダウンロードやネット通販で挑戦しているくらいのバイタリティでリアルショップにも様々な提案があって良いと思うのですよ。例えば、洋楽ですが、リアルショップでもダウンロードでも上位で売れ続けている、アリアナ・グランデやサムスミスのアルバム・ダウンロードが先日のキャンペーンでは千円前後で、これは魅力的ですよね。」
事務局「リアルショップだったら、普通に2千円前後。紙としての歌詞カードやジャケットは欲しいけど、それでも2倍以上の値段をかけて買うっていうのは、ちょっと思い切りが必要ですし、そりゃあ、配信を買いますね。」
臼井「配信の方は、Spotifyという黒船がやってくる前に、プライスオフをキッカケに色んな音源がダウンロードでも買えますよと、新規のお客様にうまく導線を作ってあげているのではないでしょうか。だったら、もっと危機的なCDショップにも、そうしたお助けツールがあってもいいんじゃないかと思うんですよね。
現在、生き残っているショップは、本当に頑張っていらして、決してメーカーに甘えてばかりじゃないと思うので、もう少し歩み寄りがあってもいいのでは。効率が悪いからと単純にコスト計算をして突き放すのではなくて。」
事務局「いわゆる中間ヒットを支えるというのは、次のヒットに繋がる可能性を持っていますよね。」
臼井「そうです。旧譜を買うことは新譜を買う事への熱意にも繋がりますから。」
事務局「厚木のじょいふるミュージックさんなど、ヒットとヒットの間の橋渡しを日頃から仰っていて、そういうショップは貴重だなと思います。」
臼井「ですよね!そういうショップは能力の塊、お店に「買う」と「買わない」の間を埋める為のアイデアが豊富なんですよ。店員さんや、POP、品揃えなど、本当にすごいノウハウが詰まっているんです。」
事務局「若い人でリアルショップに行った事がない人もいると思います。リアルショップって行きづらいとか、何見ていいか分からないんだけど、とか。いいショップの見分け方って何ですか?どこに行けばいいんですか?という質問をよくネット上でも見掛けます。なにかアドバイスありますか?」
臼井「分かりやすい所では、まずインストアライブやモールでのフリーライブはオススメですね。あと、これはお店に対してもですが、CDショップに行く人が「イケテル」存在になればいいなと思いますよね。例えば、様々な配信サイトがあるのに、実際のシェアよりも、「iTunesでダウンロードしたよ」っていう書き込みや発言が随分と多く見られます。それは、やっぱり、そこで買うと書いた方が「イケテル」自分をアピールできるんでしょうね(笑)。
皆、音楽には興味あって、例えばブログに歌詞を掲載して、恋人とのラブラブな写真を貼っている人も多いのですが、残念ながらそこにはCDショップに通っている匂いが感じられないんですよね。むしろ、全く見かけないタイプの人かなと思うことも。つまり、ファッションへの関心は強いけれど、CDショップには全く興味なさそうな感じです。ロック系はそこでの熱情がパッケージに反映しやすいのか、CDショップに行く事も「カッコいい」に繋がっているんでしょうね。」
事務局 「CDショップ大賞で第2回目から始まった地方賞ですが、今回は全国11ブロックにまで成長してきました。地方の人たちの意識もちょっとずつ変わってきたなぁと、地方から盛り上がっていきたいという気持ちが年々強くなってきた気がします。」
臼井「ライヴハウスやホールなど、ライヴと連動した展開のショップも増えているし、ジモドル(地元アイドル)があり、地元バンドも一緒に推すなど、各地で地元コーナーも増えていますよね。地方発の元気や特色をアピールするのに、“地元”ってわかりやすいキーワードじゃないですか。多くの人が郷土愛を抱いていますからね。」
事務局「ジモドルが始めのキッカケになっていますかね。」
臼井「大きなキッカケの一つだと思います。今は、市場全体でも元気ですからね。」
―アーティスト自身が推したくなるショップ―
事務局「CDショップ店員に求められている事って何でしょうか?」
臼井「例えば、お客様から何か相談された時、すぐにパソコンでデータベースを調べる店員さんがいますよね。そうじゃなくて、ネット通販が出来ない事、自分ならばどうやってサポートが出来るかなとか、そういうった心遣いがあれば嬉しいですよね。
私もリアルショップで買い物をする時に、置いていない商品について尋ねることがあるのですが、店員さんがマニュアル的にパソコンで検索し始めると、このショップでの買い物自体、消極的になります。データベースに行く前に、なんかちょっとその場で考えたり、こちらのニーズに寄り添ったり、できるショップであって欲しいなと思います。自分が得意じゃないジャンルでも、関心がある雰囲気を出せば、そこから学ぶこともあるかもしれませんよね。一人で全てのジャンルを包括するのは難しいけれど、スタッフ何人かで手分けして、ショップとしてオールジャンルのソムリエだったら心強いですよね。
あと、よく思うのは、メディアから放置されがちなジャンルってまだまだあると思うんですよ。今ならばコアなヒップホップや、TOP10クラスじゃない中堅からベテラン・アーティストなど。
アイドル、バンド、ギター女子、メガヒット連発のベテランなどは、それぞれどこかのメディアやショップがプッシュするのでしょうが、どこでも応援されないような、ジャンルやアーティストは、まだまだあると思うんです。そこをちゃんとショップから拡げられないかなあと。これも“中間ヒット”と同様ですよね。また、専門店任せじゃなくて、一般のJ-POPやロックファン、更には中高年が好きそうなアニメやニコ動発のアーティストを拾い上げるチャンスもまだまだあるでしょうね。
そういえば、00年代前半までは“ぶらさがり需要”と私が心の中だけでそう呼んでいるのですが(笑)、腕を組んだ彼氏に女性がおねだりしてCDを買ってもらう、というようなカップルをよく見かけました。今でも、子どもから“買って買って攻撃”を受けて、仕方なく買っていくお父さんお母さんの姿はモール内のCDショップでもよく見かけますが、そういう所を狙うのも有りかな~と思います。」
事務局「こんなコメントだったら買いたくなるというコメントはありますか?」
臼井「タイアップ関連など、メーカーからの情報をそのまま載せていないコメントカードは読みたくなりますね。この人はきちんと聴いているなと思って、その人オススメの他商品も見たくなります。
逆に、どのサイトにも転がっているような情報がコメントに書いてあったら、別にここで買わなくても、1円、1ポイントでも安い所で買おうかなと思ってしまいます。」
事務局「ヒットチャートとリアルショップの関係性について思われる事はありますか?
いつも臼井さんが「10位以下のチャートに注目すれば面白い」って言われますよね?」
臼井「ヒットチャートの上位は、実はある販売サイト限定で売れているものも多くて、CDショップや人気の通販サイトなど一般流通で買われている数字ではないですよね。発売前のイベント会場での予約だけで数万枚売れてオリコンTOP10入りしても、リアルショップでは100枚も売れていない、なんて作品もあります。
ですから、10位以下でのチャートアクション、つまり、その特殊な販売分がなくなってからもチャートでじわじわと粘っていれば、それは本当のヒットですし、そこにリアルショップの力があることも少なくない。
だからヒットチャートは、「瞬発的」「単眼的」ではなく、「長期的」「複眼的」に見て欲しいと、自分の連載では常々主張しています。例えば、様々なヒット要素を加味して作られる、ビルボードジャパン・チャートも面白いし、リアルショップで長く支持される予兆は、むしろこのチャートに見られるかもしれませんね。」
事務局「CDショップ大賞に対する思いはありますか?」
臼井「ショップ店員の投票によって受賞作品を決めると、市場全体のシェアよりもバンド系が強くなっていますが、それはちゃんと推せばお客様に響くというのを、店員さんが実感されているからだろうと思います。ただ、“ザ・芸能”(笑)なアーティストでもメガヒットでもない良質なアーティストってバンド以外にも多いので、今後、CDショップ大賞で特にソロ・アーティストが脚光を浴びると良いなと思いますね。」
事務局「今後のショップに期待する事はありますか?」
臼井「ショップについては、連載やSNS上で発言する際、他の何を語るよりも反応が薄いんですよ。多分、何を言っても、「それは理想論でしょ?」「もうCDショップは時代遅れだよ」って思われているでしょうね(苦笑)。それも分からなくもありません。
でも、何かが変わってくれるまで、挑戦するしかないのかなとも思うんです。逆戻りは出来ないけれど、スタッフの方達が音楽への愛情を持ちながら音楽に携わる事は、きっと何かが変わるキッカケになるはずだと。Spotifyを推進している人も、パッケージを全否定している訳ではないですから、そこを敵対視する訳ではなく、もっとその音楽が好きな人を取り込めればリアルショップにも繋がるなとか、ここでも繋ぎ目部分を抑えといた方がいいと思いますね。」
事務局「どうせ売れないから、という態度はNGだと。」
臼井「卑屈だと透けて見えちゃいますよね。この人信頼しても未来がないな~って。先に述べた北海道の音楽処さんはチェーン店でもなく、大変な部分も多いと思いますが、誰かが敵というのではなく、音楽が好きという雰囲気で溢れている。そういう卑屈さがないからこそ、TVに引っ張りだこのアーティストでも、音楽処だけにとっておきのコメントを書きに行くんでしょうね。」
事務局「エコ贔屓できる店、権力に媚びていない店っていいですよね。」
臼井「言い換えれば、アーティストが自分で推したくなるようなショップを作っちゃえばいいんじゃないでしょうかね。その熱量は、ネット通販では十分表現しきれませんから。
例えば、バンダレコードの東北の各店舗って何故こんなに面白いのですかと、ある店長さんに尋ねたら、人を育てるよう心掛けています、と言われて、結局は人なんだなと、あらためて基本を教えられた気がしました。スタッフが不定期に集まって、和気あいあいと硬軟織り交ぜて話し合うなど、その中から人が育つとのことです。
今、リアルショップには「卑屈」にさせる問題が大量にあるでしょうが、その中でもリアルショップとメーカー間で、歩み寄りがより進めばいいなと思いますね。例えば、ダウンロード販売の値下げは、安直かもしれないけれど、大量の新規顧客を取り込むはじめの一歩にはなっている訳ですし。」
事務局「では最後に、CDショップの未来は?」
臼井「ショップの数自体は確実に減っていますが、その中で真剣に頑張っているCDショップ自体はむしろ増えているなと思います。それは迫りくる危機感もあるでしょうが、CDショップ大賞のようにリアルショップを応援する空気が出てきたのもあるでしょうね。例えば、新星堂盛岡店ではカフェが併設されたり、他にもインストアイベントがしやすいショップが増えていたり、変わろうとしているお店は外見からでも分かります。
90年代末、“物語を売れ”、という内容の本が幾つか出ましたよね。そこには、近い将来、産地直送や、誰がどこで作っているものかが重要になる、どんなに高くてもそれを欲しがる人が出てくるだろう、というようなことが書かれていて、当時の私は「そんなバカな」って軽く思っていましたが、今まさにそういう時代ですよね。物語を買う事に意味がある、という流れに音楽も流れているはずですし、そこにリアルショップが上手く機能していけばいいなと思います。」